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2012-10-11

2012年10月8日 玉山主峰 - 台湾最高峰を塔塔加鞍部から登る

主峰上の筆者

(ほかに2020/102018/52013/11の玉山登山記録があります。そちらもどうぞ)

玉山主峰に登った! 台湾にとっての玉山は、日本における富士山と同等の意義がある山だ。萬人周知のように、台湾、そして日本も含む北東アジアの最高峰(標高3952m)である。台湾の中央を走る二百を越える3000m級峰々の中で、その存在はひときは大きい。台湾の南部、嘉義県、南投県、そして高雄市にまたがる玉山は、主峰を中心に東西南北に尾根を伸ばし、北峰、東峰、南峰、そして西峰、さらにその先にも顕著なピークを擁する、雄大な山塊である。日本統治時代には、富士山よりも高い山として新高山と呼ばれ、真珠湾攻撃「ニイタカヤマノボレ」などその後の歴史にも登場する、日本にとって切っても切れない縁のある山である。

西の塔塔加鞍部から主峰を往復(クリックで拡大)
台湾南部にある玉山
玉山を含む、台湾の高山登山は入山許可が必要である。玉山は玉山国家公園管理処が広大なエリアの管理をしている。登山の前に、入山許可証を取得し、実際の登山に際しては許可証の確認提出が求められる。登山道は、一般的な塔塔加から、また東埔からの長距離ルートがある。これだけのスケールの山は、登山に時間を要する。東埔登山口からは三日がかりの登山だ。それよりもポピュラーな塔塔加ルートは、標高3400mぐらいにある排雲山荘に一泊し、翌日主峰に登頂後、塔塔加登山口に下山する二日の行程である。排雲山荘は約三年前に始めた改築工事のため、今は開放されていない。そのため、もともと二日で歩く距離を一日で往復しなければならない、かなりハードなルートとなっている。実際、往復約22kmの距離を十三時間半要した。

玉山主峰から南峰とその先の南部高山群
高山登山は、台北近郊登山とは次元の違う世界である。今回は、日本からの参加者も含む友人のグループに参加し、八人パーティのメンバーとして行動した。時々台北近郊の山に一緒に登るHさんも一緒だ。初日には台北から一路第三高速道路で中埔へ、そこから18号公路を阿里山経由で登り、夕方鹿林山莊に到着一泊した。翌日は早朝三時半に出発、車で塔塔加登山口へ、そこから登山道を排雲山荘へ、さらに急坂となる登山道を主峰へ往復し、塔塔加登山口へ下山、そして更に一泊した後、三日目に台北へ帰った。

雲海が谷を埋める、夜が開けてきた。左に小南山のギザギザピークが見える
台湾の高山は、十月から十二月の期間が比較的天候が安定し、登山が活発に行われている。台湾南部の平地は気温が三十度近くあるが、玉山では一桁台である。早朝三時前に起床、3時30分に山荘を車で出発。塔塔加登山口(標高約2600m)から3時50分に歩きはじめる。周囲はもちろんまだ暗い。昨夜は満天の星が見えたが、ガスがかかっている。メンバー各々、ウインドブレーカや手袋、防寒帽などを着し登山道を行く。自分はパーティの中で最後尾のポジションだ。道の程度はよく、前の登山者の後をヘッドライトの光を頼りに歩く。周囲の景色がどうなのかは、まったくわからない。500m毎に道端に現れる、距離表示キロポストが唯一進捗を確認できる手段だ。ゆるい上り道を500mほど進むと、ジグザク道となり一気に100mの高度を稼ぐ。玉山登山第一弾の試練場所だ。

岩の露出した部分を歩く
緩やかな山道になったあと更に500mほどで、孟祿亭のあずま屋に着く。以前この地で滑落し命を落とした外国人の名にちなんで、名付けられたそうだ。そのすぐ先には、乾式処理のトイレが造られている。日本の富士登山では五合目からの登山道に相当する、玉山メイン登山道ならではの立派な施設だ。時刻は5時少し前、登山口から約1時間の距離である。登山口から2.5kmのキロポストを過ぎる頃、谷を挟んだ対面の山の輪郭がわかるようになる。塔塔加登山道は、玉山主峰から西に伸びる尾根の南側山腹をトラバースしていく。尾根上には前峰と西峰のピークがある。前峰(標高3239m)へは、2.7kmのところから急斜面を登る道が分岐する。台湾の山岳では69番目の高さのこの山は、日本第二の山、南アルプス北岳よりすでに数十メートル高い。

原生林の中の桟道
右側の谷底は数百メートル下だ。空も白みはじめ、谷が雲海で埋め尽くされているのがわかるようになる。パーティの皆は足を止め、しばし雲海に見とれる。時刻は5時20分過ぎだ。3kmキロポスト付近から、道には木製の桟道や、岩が露出し安全のための鎖が渡してある部分が現れる。鉄製の橋が、涸の小沢を渡るため造られている。4.5kmキロポストあたりまでくると、右に対岸の南西方向に伸びる尾根とピークが見えるようになる。頂上の下、全面岩が露出した玉山小南山がそびえている。日本北アルプスの剣岳のような、岩がゴツゴツした山だ。西峰展望台が登山道の上方に造られている。その近くには、二つ目の乾式トイレがある。道は、ここから方角が北東方向になるので、玉山主峰から南に伸びる稜線も見えるようになる。

白木林の立枯れ樹脇を歩く
朝日が稜線をこえてさし始める
5kmを過ぎると、道端の樹木は立ち枯れの幹が多くある。白木林と言われている。遮る樹木がなく、周囲が見渡せる。ここからは主峰から南に伸びる主稜線が遠くに高くそびえている。ジグザク道が現れ、高度を稼ぐ。標高はすでに約3100mだ。休憩の時に、山荘で作ってもらった握り飯を食べる。時刻は6時45分、朝食を取ってからもう四時間近く経ち、空腹だ。森の中に入ると、道は一旦数十メートル下り、また登り返す。登り返すと、大きな岩が露出した大峭壁がある。脇にある説明文には、砂岩の峭壁上部には海中生物の化石があり、台湾の山脈が海底より隆起したことを示している、とある。森の木々は台灣鐵杉原生林、樹齢はどれだけあるのか。この痩せた山肌でこれまで太い幹になるには、百年単位の時間が必要だろう。

大峭壁の脇をいく
主稜線が見えてきた、あと1km強で排雲山荘だ
安全のための鎖
7時45分、7kmキロポストを過ぎる。太陽はすでに高く登り、木々の間をさしてくる朝日が眩しい。空は青空、今日は良い天気だ。8時5分、7.5kmキロポストを過ぎる。標高は約3300m、第一目標排雲山荘まで、あと距離1km、標高差100mだ。ジグザグの登りを過ぎ、最後のひと踏ん張りで、8時40分排雲山荘に着いた。ここまで登山口から約5時間、メンバーの中には山慣れしていない人もいて、結構つらそうだ。二度目の食事をする。不必要な荷物は山荘の前に残し、主峰登頂に備える。

排雲山荘で休憩する
半時間ほどの休憩後、9時25分登頂開始だ。長く休んだので、メンバー皆元気を取り戻したようだ。塔塔加登山口から排雲山荘までは、約800mの高度差を8.5kmかけて登ってきたが、ここからは2.4kmで550mを稼ぐので、道はすぐ急坂になる。空気を吸っても、肺に入ってこない感覚だ。学生の頃は、日本アルプス高山を歩いていたが、3000mを越える山登りはもう三十数年ぶりのことになる。日本アルプスでは、北で2400m、南で2600mあたりが森林限界だが、亜熱帯に属する台湾ではその高さが1000mも高く3500mあたりとなる。圓峰山屋へ道が分岐すころ、低いビャクシン(圓柏)も現れ裸の山肌を登るようになる。10時10分、山荘から1kmぐらいの地点で、道は大きく山肌をジグザグに登り始める。大きなジグザグ道二回で、高度100mを稼ぐ。見上げる山頂まだ遠い。空は黒いほどの青色だ。1.5kmキロポストを過ぎてしばらく登ると、高度はすでに3800m近く、富士山よりも高い。時刻は10時50分、山荘から1時間半ぐらい登ってきた。

雲海と森林限界以上の山道、登頂を済ませた登山客が下山していく
頂上直下風口の最後の登り
ジグザグの幅が小さくなる。それと同時にザレ石が多く、岩の露出した道を登るようになる。すでに登頂を果たした登山パーティが、三々五々下りてきてすれ違う。あと少しだと、応援してくれる。鎖場も現れる。2kmキロポストを過ぎ山を左側に回りこむと、屋根が付けられた道を進む。風口と呼ばれ強風がふくこともあるセクションだ。今日は、天気が良いだけでなく風も殆どなく、とても幸運だ。屋根道を抜けると、左に北峰への道を分岐し、最後の200mを登る。メンバーは皆、最後のひと踏ん張りを頑張っている。11時40分過ぎ、とうとう主峰頂上に到着した。塔塔加登山口から登ること8時間、感激の一瞬だ。目に飛び込んでくる、360度の大展望に言葉を失う。

頂上からの景色は、東西南北に伸びた玉山の尾根のその先に、台湾の背骨である山脈がすべて見える。雲海がその間を埋め尽くし、平地は見えないが、まさに雲上の楽園だ。天候観測所のある北峰の遠く北には、台湾第二の高山、雪山主峰を含む雪山山脈が見える。南方面は、關山が、東側には秀姑巒山が見えている。これらは、すべて3000mを越える山々だ。谷は深く、山は高い。これが高山だ。山登りに明け暮れた、若いころの血がたぎってくる思いだ。

頂上から北方向を見る、台湾の中央山脈が見渡せる。北峰の彼方に雪山が雲の上に浮かんでいる
南西方向を見る。南峰から伸びる尾根上の小南山、右のピークは西峰が見える。雲海が平地を埋め尽くす
頂上から下る
頂上には、標高3952mを記した玉山主峰の石がセメント台の上に造られている。頂上はそこそこの広さがある。他の登山者はすでに下山しているので、頂上は我々八人だけだ。各々記念写真を撮ったり、食事をしたりして思い思いにくつろいでる。集合写真を写したあと、12時半に下山を開始する。後ろ髪を引かれる思いだが、塔塔加登山口は遠い。下山は、各自スピードが違うので、とりあえず排雲山荘まで各自下る。リーダーのGさんは最後を歩き、メンバーの確認をする。苦労した鎖場の急坂は、慎重に下る。ジグザグ道までくると、リズムをつけ軽快に下る。1時間で山荘戻ってきた。

風口近く屋根付き道を下る
圓峰山屋への分岐
排雲山荘まで戻ってきた、稜線が高い
森から見る午後の雲海
山荘で他のメンバーを待つ間、そこで休憩していた登山客と言葉を交わす。彼女は今まで数回玉山に登山したそうだが、今日の天候はその中で最良だそうだ。我々は本当に天候に恵まれた。山荘の管理人が親切に水を水筒に詰めてくれた。半時間ほど休憩し全員が揃った後、14時に登山口に向けて8.5kmの道を、Hさんと日本から参加したNさんと三人で下り始める。山荘から下ること1時間15分、登山口まで5.5kmキロポストあたりでは、朝の登りにはまだ暗かった玉山小南山は、午後の陽射しで影のアクセントができている。ガスが去来し、隠れたり現れたりする。その少し先で、休憩する。空腹を覚えたので、甘い物を食べる。

ガスが上がってくる
霧の中で見え隠れする前峰
残り3.7kmぐらいまで来ると、前方に玉山前峰が見える。朝は暗くてわからなかった。16時20分、前峰への分岐に着く。2時間20分で下ってきた。また一休みする。残りは2.7kmだ。登山口まで2kmあたりまで来ると、ガスがかかってきた。周囲の景色は霧の中に消え、幻想的な森の山道歩きとなる。17時27分、霧の中に登山口の石碑が見えた。とうとう、登山口に戻ってきた。写真を撮ったりして待っている間に、迎えの車がやって来た。後から追いついた他の2名のメンバーと一緒に、鹿林山荘に帰った。膝を痛めたLさん、体調の悪いLさんの二人は、リーダーのGさんと二時間遅れで下山し、全員が帰還した。

霧の中の山道
今回は、距離22kmを休憩も含め約13時間半を要した。累計登攀高度は約1800mである。事前に訓練の意味で、七星山へ登山したが、実際の玉山山行とは差が大きい。距離の差もあるが、やはり高さの違いはいかんともしがたい。空気が薄いのだ。滞在時間が長ければ体が順応してくるのだが、その余裕の無い日程では避けがたい。幸いにしてそれほど大きな障害はなかったが。

台湾は九州ぐらいの大きさの島に、二百を越える3000m級の山々がひしめいている。その雄大さ、自然の奥深さは、日本アルプスに勝るとも劣らない。実に登山者の天国だ。主峰から展望できた、高山の峰々はその感をさらに深くする。台湾に長く在住してきて今回初めての玉山登山、もっと早く登るべきだったと思う。この登山チャンスをくれた友人達に感謝したい。自分の年齢などの条件が許す範囲で、これからも玉山の主峰以外のピークや、いわゆる五岳三尖一奇など台湾を代表する山々に登りたい。

================== 2012/10/30 追記 =====================

一緒に登ったメンバーが、玉山公園管理処の登頂証明書を申請してくれました。できてきたものは、写真のように立派なものです。僅かな費用で申請できるので、登頂したら記念に申請すると良いでしょう。

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その他の3000m高山登山記録:

北大武山  台湾最南端の3000m峰
雪山主東峰 台湾第二の高山 日本統治時代の次高山
奇萊主北峰 険しい山容の遭難最多高山
武陵四秀        雪山山脈の支稜人気縦走コース

上記はすべて五岳三尖一奇十峻の一部

台湾3000m峰登山簡単ガイドがあります。

2 件のコメント:

  1. こんにちは。初めてお邪魔します。日本在住の吉川と申します。来たる7月末に玉山に登りたいと思っています。いろいろ教えて欲しいです!フェイスブックでお探ししたのですが、見つかりません。宜しければ直接連絡を取れる方法を教えて頂けませんか。

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  2. 吉川様

    入園(入山)許可の申請がまず必要になります。これについては、ご存知ですか。
    http://npm.cpami.gov.tw/jp/index.aspx

    入園許可を取得し、排雲山荘に宿泊という前提で、お話しします。
    塔塔加登山口から排雲山荘までは、台北から出発では間に合わないので、前日登山口の近くに宿泊されることを勧めます。一般的にはここ(東埔山莊)を利用します。
    http://dongpu.mmweb.tw/

    阿里山までは、一般の交通機関で来られ、この山荘のシャトルサービスを利用するとよいと思います。また、山荘から登山口までのシャトルサービスもあります。詳細は、上記山荘のネット上に説明があります。阿里山へは、バスや阿里山森林鉄道など、いくつかの一般交通手段があります。

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